私は主婦としてティモールにほぼ3年在住していました。
生活拠点である家は、首都ディリで最も古い(といっても築7年くらい)外国人用アパートメントのひとつでした。
ポルトガル人経営の1DKで全14部屋、お掃除をするティモール人女性が4~5人、排水溝や電気系統の修理専門のメンテナンスをする男性が2人(停電が多いうえに電圧が不安定なため電化製品がすぐ故障する)、あとはガードマンが4人ほど、交代でアパートに詰めていました。
私はかなりの時間を家で過ごしたので、特にお部屋のお掃除を担当してくれたティモール人女性と仲良くなりました。彼女の名前はジェルマーナ。34歳くらいだったと思います。
私はポルトガル語を習っていて、彼女はポルトガル語が話せるのでよく会話に付き合ってくれ、私のポルトガル語の間違いを笑いながら直してくれました。おかげでティモール生活の最後のほうには、女性ならではの噂話なども冗談を交えながらできるようになり、楽しい思い出となりました。
彼女はだいたい朝9時くらいに、5歳くらいの娘と手をつないで、歩いて出勤してきました。仕事が終わるのが15時くらい。具体的な仕事の内容としては、
- 床の拭き掃除(南国なのでドアや窓、天井の隙間から蟻やらゴ●●●が縦横無尽に入ってくるので、殺虫薬剤をまめに塗布しないと虫部屋になってしまう)
- ごみ捨て
- 食器洗い(住人のほとんどがポルトガル人で、彼らはほとんど自炊をしない習慣だし、私は自分で洗っていたので、あまりこのご用はなかったと思う)
- 洗濯物をランドリー店に持って行って、乾いたものを引き取ってくる、(部屋に洗濯機を置く場所がそもそもなく、アパートの裏に洗濯屋さんがあって一手にアパートの部屋全部の洗濯物を引き受けている。そのせいか靴下、シャツなど他人のものが引き取られてくること多数。)など。
以上のことを一人3~4部屋分担当し、最後にお掃除道具を片づけて終わりです。
ジェルマーナが言うには、彼女は、ひと月100米ドル(ティモールでは米ドルが使われています)くらいのお給料だと言っていました。ご主人はインドネシア時代からの警察官で、彼のお給料も彼女とほぼ同じくらいだそうです。ティモールのディリで働くティモール人の収入はだいたいそんなところと聞きました。
さて、話は変わるのですが、出会った当時、彼女は妊娠中でした。徐々におなかが大きくなっていって、ある日、「出産でしばらく仕事にこれなくなるので、その間ほかの人が来る」と、彼女が言いに来ました。
私は、彼女の仕事が重労働ではないとはいえ、出産ぎりぎりまで仕事をして、特に不安げな様子もない彼女に頼もしさを感じつつ、そして彼女が職場復帰するときには、もう私はこの国にいないかもなぁと思いながら、彼女を見送りました。
それから3か月ほどたったでしょうか。彼女が出勤してきたのです。えらいこと復帰が早いと思いましたし、誰がまだふにゃふにゃの乳幼児を見ているのかと不思議に思いました。
日本なら、少なくとも1年くらいは育児休暇で職を離れます。それも実家とか、ほかに子供見てくれる人がいればの話で、保育園などにうまく空きがなければ、それこそ小学校にあがるまで、日本にくらす母親にとって職場復帰は難しいのは周知のところです。
なぜ彼女があんなに早く職場復帰できたのか、いろいろ考えているうち、次のような理由がわかってきました。
ティモールの家族の平均の子供の数は7~8人です。一人の女性は7~8人の子供を産みます。衛生状態や、病院の施設も数も満足ではないので乳児死亡率も高いのですが、それでも圧倒的に子供の数が多いです。
18歳くらいで結婚して子供を産みはじめ、たぶん2年ごとくらいに出産していくと、最初に産んだ子がそのうち大きくなり、下の子の面倒を見るようになります。道端で、よくようやく歩き始めたくらいの子を、自分の子供のようにあやしている兄弟らしい少年少女をよく見かけました。ティモールのだいたいの家庭がそうであるので、上の子供は下の兄弟の面倒を実によく見ます。
さらに親自身の兄弟もたくさんいるわけで、おそらく近所に兄弟がいれば、その家に子供を預けて仕事にでることもできるのでしょう。また夫である男性も育児に参加するのに抵抗はなくむしろ積極的なようです。
独立戦後まだ間もなく、地元の産業が少なく、なかなか仕事がないので、男性だろうが女性だろうが家族のうち稼げる人が稼げるように、皆が協力するのがティモールの気風のようです。
実にカジュアルに子供を産み、そして仕事復帰し、周りもそれに対して寛容というか、それが普通のようです。これが、他国の国際機関だったり、お掃除やレストランではない、もっと高度な責任を負うような仕事であれば、そんなに簡単に休んだり出勤したりはできないでしょうが、ティモール国内の一般ティモール人女性には、日本よりもかなり職場復帰のハードルが低いというかハードルなしという印象です。
日本大使館に勤めている、お子さんがいる若いティモール人女性が、日本に短期出張しましたが、ティモールのそういった気風があればこそ、彼女は安心して他国に勉強しに行けたのだと思います。そういった意味ではティモールは、女性にとっては、なかなか悪くない国かもしれません。
ちはるさんは、新婚生活を東ティモールでスタートされ、同国に魅せられた大和なでしこ・知的行動派です。愛用のトンボのネックレスといつも一緒に東ティモールを飛翔、前へ!(2006年~2009年在住)