Made in Japanの魅力

ティモールの秋葉原

東ティモールの首都ディリには、ひそかに「ティモールの秋葉原」 と呼ばれている、電気街があります。テレビや冷蔵庫、パソコンから携帯電話まで、ないものはないくらい多種多様なものが売られています。それだけでなく、 日用雑貨や衣類、食品も、小さな商店からスーパーマーケットに至るまであり、生活に困ることはほとんどないといってもいいでしょう。ただ、今のところ産業 に乏しい東ティモール。並んでいる商品のほとんどが他国から輸入されたものです。近隣のインドネシアやオーストラリアをはじめ、日本や中国、そしてはるば るブラジルなど、本当にいろいろな国で作られたものが入ってきているのです。

日本からのお土産

さて、年に一回は休暇を兼ねて、日本へ帰国していた私。帰りを待つ身の東ティモールの人たちとって、楽しみなのは何といってもお土産です。

お土産といえば、食べ物なら和菓子やようかん、おまんじゅうとかおせんべい・・・、日本茶もいいかな、海苔や漬物とか・・・・。きれいなの は扇子や千代紙、風呂敷なんかもおしゃれかなー。せっかくのお土産なのだし、みんなが見たことも食べたこともないようなものにしよう!と、こちらも色々と 考えるわけです。とは言え、1家族10人くらいが一緒に生活しているティモール、一人一人にお土産を用意していたのではこちらの懐も間に合わない、という ことで、結局は食べ物を選ぶことが多くなってしまいます。

 

こうして悩みになやんで持ち帰ったお土産ですが、実はみんなあまり嬉しそうじゃない・・・。

 

例えばようかん。豆が甘いって一体何だ!甘すぎる!!と不評。私からしてみれば、あれだけ大量の砂糖を入れるコーヒーの方が絶対に甘い、と思うのですが・・・。おいしいお茶だって、苦い!砂糖砂糖!となるので、あぁ、せっかくの玉露が・・・、となるのです。

 

それよりも何よりも、みんなにとって魅力的なのは「日本製品」。

 

日本製、Made in Japanというと、電化製品が頭に浮かびます。その中でもパソコンやデジタルカメラはとても人気で、日本の家電量販店では、東ティモールで買うよりも、 良い品を安く手に入れることができるとあって、次帰国する時にはお願いするかも!と言われることもしばしば。しかし、日本製の魅力はそれだけではありませ ん。


出発日が迫ったある日のこと、「よかったら腕時計を買ってきて欲しいんだけど・・・。」と同僚。時計!!お土産にしては高価すぎるのでたじ ろいだ私に、「もちろん代金は払うから!!」と、本気で欲しい様子なのです。一人が口火を切ったものだから、実は私も俺もと出るわでるわで、私が忘れては 困ると、紙にリストアップする人たち・・・。その内容はというと――――、

雨合羽!!

私:そんなのこっちでも売っているし・・・。

Aさん:いや、日本のものはいい!水が入ってこないし、何といっても長持ちする!

合羽は防水の役割をして初めて合羽として役に立つわけで、それが当たり前だと思っていたけれど、よーく見て買わないと穴が空いていたり、水がしみ込んできたりする商品が、こちらでは普通に売られています。確かに安いのですが・・・。

長靴!!

私:そ、それはかさばるからちょっと・・・、でもそれもこっちで買えるし。

Bさん:いや、日本のものはいい!軽くて丈夫だ!!

サンダル!!

私:何だそれは!ほらみて、あそこの店で山のように売っているよ。

Cさん:いや、日本のものはいい!こっちで買うと一週間もすればダメになるけど、日本のものは一年でもいける!

そうして、ものさしで足の長さを計り始める人たち。日本人は足が小さいから、長さはよくても、幅が合わないかもしれないよー、と、苦しい言い訳をすると、紙に足を乗せて足型をとり、これに合わせて買えば間違いない!と反撃がきて、相当本気なのです。

乾電池!!

私:え?乾電池こそこっちで買ってよ・・・。

Dさん:いや、日本のものはいい!こないだ買ったのなんて、一時間ももたなかった!あれは騙された!!ほら、この電池、これは日本のメーカーだろう。これは相当もっているよ。

 

そんな彼らは一様に言います。もちろん高すぎるものは手がでないけれど、ちょっとくらい高くたっていい、品質がいいのだからそれくらいは払う、と。お土産としてプレゼントされるから頼んでいるわけではなく、自分で代金を支払ってでも欲しい、つまり本当に欲しいのです。

この国での所得を考えてみると、3千円のサンダルだって、1万円の時計だって、決して安い買い物ではありません。それでも、本当に価値のあ るものには、その対価をきちんと支払う、これは安いものがもてはやされる現代において、忘れかけている大切な消費の形ではないかと気付かされました。


生産者と消費者との関係はどんどん遠くなり、消費者は生産者のことを思いながら、生産者は消費者のことを思いながら買ったり売ったりするこ とが難しくなっている現代。毒の入ったものが売られていたり、欠陥があるとわかっていて販売していたり、不祥事もよく耳にします。商品に完璧さや質のよさ を求めるような日本の価値観は、今やガラケー化(世界標準から外れ孤立化)している、なんて記事も目にしました。けれど、真面目に正直に、誇りを持って作 り上げてきたものは、たとえ遠く離れた場所でも、評価し、認めてくれる人が必ずいるのです。

日本人として、Made in Japanのその国に生まれた者として、誇らしくなる出来事でした。

 

2012年7月21日