東ティモール通信44

日本の皆様、こんにちは!遅ればせながら、明けましておめでとうございます。今年も一年よろしくお願い致します。通信がとっても遅くなってしまい、申し訳ありません。8月の進捗状況の報告からだいぶ時間が経過してしまいました。今回のレポートの間に、一時帰国もあり、クリスマスもあり…皆様にお伝えしたい事はたくさんあったのですが、なかなか筆が進まず、結局2016年が明けてしまいました。。
今月は、味の素事業の進捗状況と新しく開始したココナッツオイル生産支援プログラムについてお伝えしようと思います!

*味の素事業進捗状況*

前回のレポートでは、手作りの身長測定器を製作した話をレポートで書かせて頂きました。あの測定器…実は現在、使われていません。せっかく出来上がった測定器(写真左)でしたが、測定器が木で出来ていること、特に、子どもの頭が木の板にあたることを母親たちが嫌がり、測定を拒まれてしまったからなのです。

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↑8月に製作した木の測定器

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↑測定を嫌がる子ども。体重測定でまず泣かせてしまう…。

このプログラムを担当してくれているイリオマール出身のスタッフには、「イリオマールはラウテン県の中でも田舎の方ですので、特に、新しいものを受け入れられない人たちなんですよ…」と申し訳なさそうに言われて、「いや、でもそんなに頭にバーンって板をあてるわけじゃないよ!」と一生懸命測定の仕方をお母さん方に説明しましたが、「なにこの外国人…」(イリオマールにはイリオマールの言語、マカレロ語という言葉があるため、テトゥン語はほぼ通じません。私の説明は、スタッフの通訳を介してしてもらいます。)という目で見られてしまい、子どもたちには「白い幽霊~~!!」と言われて泣かれてしまうし、測定時に仕切ろうとすると、スタッフたちから「白くて怖がられるから出てこないで下さい!」と言われてしまい、ティモールに住んでもう長いのですが、久しぶりに本当に心が折れました。。

 一番大事な身長の測定ができない毎日を、どうしよう…!!!と頭を抱えていたとき、カトリック札幌地区の正義と平和協議会のスタッフの方から「東ティモール通信43を読みました。測定器の支援をさせて頂きたいと思っています。」とご連絡頂き、なんと、とってもありがたいことに、マット型の身長測定器を支援して頂けることになったのです!!この場をお借りして厚く感謝申し上げます。札幌地区の正義と平和協議会の皆様、本当にありがとうございました。支援して頂いた新しい測定器、これでバッチリと思っていたのも束の間…今度は新しいものへの拒否反応。「どうしてここまでして身長を測らなければならないのか?」と不思議がられてしまいました。
東ティモール政府保健省栄養課課長と以前話し合った際は「今後は低身長児の減少を目標として栄養課のプログラムも組んでいく予定です」との事でしたが、実際は、身長測定器もまだなく、母子手帳もまだ新しい作りにはなっておらず(体重の発育曲線のみ記されている)、結局、現在も保健省では低体重児の減少を目標としたままなのです。イリオマールのCHC(※コミュニティヘルスセンター)は、政府の方針とは違うのに、NGOがなぜここまでして身長にこだわるのか、まだ理解されていなかった事が判明しました。そのため、再度関係者会議を開き、なぜ低身長児にフォーカスを置くのか、新しい測定器を使用した身長の測り方についてもPSFを集めて指導しました。

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↑測定器使用の悪い例を見せ、どこが悪いのか伝える。 

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↑正しい測り方を理解したら、一緒に測定してみる

 今回のことで、初心に帰れた気がしています。プログラムの進み具合に一人で焦って、自分の理解を、東ティモールの人たちに押し付けていたように思います。そして、彼らの気持ちを考えることもせず、どうしてわかってくれないのか、本当は面倒くさいだけなんじゃないか?と疑ってイライラもしていました。彼らの視点でものごとを考えると、いろんな事が見えてきます。大事なことは、プログラムの結果ではなく、その過程です。彼らが理解していない状態でプログラムを進めたとしても、それは何の意味もありません。プログラムが遅れているのは確かですが、東ティモールの人々を巻き込んで、良いプログラムを一緒につくっていきたいです。

*ココナッツオイル生産支援プログラム*

 味の素事業とはまた別に、JOMAS-海外邦人宣教者活動援助後援会から支援して頂き、2015年11月から女性のココナッツオイル生産グループの支援をロスパロスで行っています。日本でも一時期ココナッツオイルが流行したと思いますが、現在もその流行は続いているでしょうか?このプログラムは、地元の製品を他地域に広め、また、女性の自立を促すことが目的です。

 今年独立から14年目となる東ティモール。独立当初と比較するとその成長は著しく、1人当たりの国民総所得は$570(2004年)から$3,620(2012年)と上昇しています。首都ディリでは、省庁等の政府機関やデパートなどで女性の働く姿を見るのが当たり前になってきています。でも、首都から車で約6時間かかるラウテン県に目を向けてみると、女性が就業についている姿はあまり見られず、子どもの面倒を見ながら家庭菜園で野菜を収穫して販売している女性がほとんどです。
また、多くの家庭がインドネシア等から輸入した油を用いて調理を行っていますが、ココナッツの育つ地域に目を向けると香りも良く、栄養もあり、カロリーの低いココナッツオイルを使用して調理を行っている家庭が目立ちます。もう4年も前の話になってしまいますが、ソロ村(ココナッツがたくさん育つことで有名な土地)に住む当時のAFMETスタッフ、アウレリアさんのお宅にお泊りをした事がありました。そこで出される料理は全てココナッツオイルを使って調理されており、美味しさに感動した事を覚えています。

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↑削ったココナッツを切れ端の米袋に包む

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↑それを2枚板に挟み、板を踏んでココナッツミルクを絞る

どうしてもっと売り出さないのか不思議だったのですが、その理由はココナッツオイルを生成する方法にありました。ココナッツオイルを作っている家庭は、機械を利用しているわけではなく、昔からの生成方法を維持しており、体力的に辛く、たくさんの量を一度に生産出来ないのです。
2015年4月に、ココナッツオイル作りをしている家庭を対象(ラウテン県ロスパロス準郡ホメ村)として独自に行ったアンケートでは、一週間のうちに1家庭が生産出来るココナッツオイルの量は20~30Lでした。この量は、家庭で生産したココナッツオイルを家庭内もしくは集落内で消費するだけで、他地域に売り出す事は難しいという事が判明しました。
グループの女性たちに、器具を効果的に使用した現代的なココナッツオイル生産方法を指導し、バージンココナッツオイル、ココナッツオイルを地元の製品として他地域に広げれば、女性の自立を支援する事が可能であると考え、このプログラムをかたちにし、JOMASに申請する運びとなりました。
ココナッツオイルを他地域にも広めるためには、やはり、質の良いものをつくらなければなりません。写真を見てもらうとわかるとおり、家の外でココナッツオイルを生成している家庭が多いです。犬、鶏などの家畜がココナッツを食べている可能性、怪我をした子どもが母親を手伝い、ココナッツに触れている可能性もあります。そのため、JOMASからの支援で質管理トレーニングをグループの女性たちに受けてもらうと同時に、生成場所となる工房を建設する事になりました。

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↑子どもたちもお手伝い

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↑完成したココナッツオイル。お母さんの笑顔!

これは本当にただの独り言で、しかも、プログラムを考えた自分が言うことではないとわかってもいるのですが、より良い質を求めると、子どもたちが母親を手伝うことが難しくなって、だんだんと家族の距離ができたりして、こんな写真も撮れなくなってしまうのではないか…と考えてしまうことがあります。女性の自立、人々の収入向上。もちろん大事なことですが、今ティモールにある素晴らしいもの、例えばそれは子どもが母親を手伝うことだったり、家族みんなが協力して一つのものを完成させることだったり…を無くさせないように、今ある良いものを維持しつつ、プログラムの目標を達成できるようにしたいと思っています。

プログラムの目標は以下の5点です。
1. グループメンバーが効果的かつ安定的にオイルが生産できるようになる。
2. 他村の住民からココナッツを仕入れることにより、他村の収入向上につなげる
3. グループメンバー自身が製品を管理できるようになる。
4. グループメンバーが安定した収入を得られるようになる。
5. 広く地域住民がバージンココナッツオイルを入手しやすくなり、栄養失調児の減少などにつなげることができるようになる。

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↑工房建設開始。11月。

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↑着々と建設進行中。12月。

 味の素事業とココナッツオイル生産支援プログラム。二つのプログラムを同時に進行させるのはとっても大変ですが、楽しみながら、そして学びながら、立ち返りもしながら進めていこうと思います。